政府は2016年から始まる社会保障と税の共通番号(マイナンバー)制度を活用して年金制度を改善する方針です。負担能力があるのに厚生年金保険料を国に納めていない企業を17年から迅速に割り出し、効果的な督促や強制徴収に繋げます。未納者を減らし、制度の公平性を高める狙いです。受給開始や保険料免税の手続きで加入者に求める書類も減らし、インターネットで簡単にできるようにします。
マイナンバー制度は税や社会保険料の徴収を効率化し、利便性も高めるのが目的ですが、年金分野の詳細な活用方法は決まっていませんでした。政府は加藤勝信官房副長官を座長とする検討チームで具体策を詰め、今春にも公表する方針です。
特に効果が期待されるのが未納対策です。企業が従業員分を集めて納める厚生年金の保険料は、全国の約250万の事業所のうち約80万事業所で未納があります。給与から天引きした保険料を国に納めていないなどです。該当する従業員は保険料が未納となり将来受け取る年金が減額されてしまいますが、今はこうした「消された年金」への有効な対策を打てていません。
政府は17年から対策に企業版マイナンバーを使います。番号による一元管理で国税庁が持つ企業の源泉徴収データを日本年金機構が共有できるようになり、従業員に給与を払っているのに厚生年金保険料を納めていない企業を簡単に割り出せます。
これまで年金機構は雇用への配慮から強く督促できない面もありましたが、負担能力があるのに保険料が未納になっている企業が分かれば強く督促できます。財産を差し押さえるなど悪質な企業から保険料を強制徴収する対応もしやすくなります。
年金機構は昨年12月に初めて国税庁から源泉徴収データの提供を受けましたが、情報を一元管理できていないので突き合わせ作業に時間がかかり、まだ終わっていません。マイナンバーができれば簡単に状況を把握できるようになります。
自営業者らが入る国民年金の未納対策にも役立てます。現在は市町村からもらう所得情報と突き合わせて、強制徴収の対象となる所得400万円以上で7カ月以上の未納者を割り出しているが、マイナンバーなら自負動的に特定できます。
保険料100円につき約90円かかっている未納者からの徴収コストの削減にもつながります。
年金に関する手続きも簡単にします。受給開始手続きで求めていた住民票を不要とします。マイナンバーができても配偶者がいる人は戸籍謄本の提出が必要ですが、単身者は17年にネット上に開設するマイナンバーの個人ページで申請手続きができ、年金事務所に出向く必要が無くなる見通しです。
低所得者や学生らの保険料の減免手続きも所得証明書の添付が不要になり、ネット上で申請できるよう検討します。個人ページから税と年金保険料を一括納付できるシステムも構築する見通しです。
年金記録が誰のものかわからなくなる「消えた年金」防止策も講じます。マイナンバーで複数の年金記録を特定の個人にひも付けられるようにします。現在は会社員から自営業に転じたり、結婚して苗字が変わるケースでは二重に年金番号が発行されています。これが持主が分からない記録が生まれる原因になっていましたが、新たな発生を防ぐことが出来ます。
▼マイナンバー
個人情報を1つの番号で管理するために日本国内で暮らすすべての人に割り振られる12桁の番号です。2015年10月から通知が始まり、16年から導入されます。原則、生まれてから死ぬまで同じ番号を利用します。社会保障と税、災害分野に限定して利用します。企業にも16ねんから「企業版マイナンバー」として13桁の法人番号を割り振り、商号や所在地にひも付けます。
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